三瀬村診療所研修報告           川崎祝さん(卒後6年目) 2002/6/24〜7/19

 

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<目的>

・地域医療のロールモデルをみる。

・自分が地域医療に従事するためには何が必要かをみる。

(都会の大病院の総合診療科5年間のトレーニングで足りないことは?)

 

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<研修>

・診療所の診療を見学し、白浜先生・スタッフの話を聴く。

・代診・当直をする。診療所スタッフと一緒に働く。

・三瀬村の地域医療に関わる他職種・他院の仕事を見学し、話を聴く。

・三瀬村の住民の方々の話を聴く。三瀬村を知る。

・佐賀医大の学生教育現場をみる。

・臨床倫理を学ぶ。

 

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<研修日程>(6月24日から7月19日まで)(上段=午前、下段=午後)

    第1週 慣れる

        月:外来見学

          外来見学

        火:モーニングセミナー・臨床倫理ケースカンファレンス・総合外来見学(佐賀医大)

          ロールプレイを用いたコミュニケーショントレーニング

        水:外来見学・巡回バス同乗

          往診・外来見学

        木:外来見学・予防接種

          高齢者サービス調整会議出席(保健センター)

        金:外来見学・予防接種

          外来見学

        土:外来見学・緊急往診

    第2週 代診・夜間当直

        月:外来診療。Hawaii大学学生見学

          外来診療

        火:午前休診(フリー)

          外来診療

        水:外来診療

          往診・外来診療

        木:外来診療

          外来診療・流水プール体験

        金:外来診療

          外来診療

        土:外来診療

          午後から休診

    第3週 月:外来見学・診療

          外来見学・診療

        火:モーニングセミナー・臨床倫理ケースカンファレンス・総合外来見学

          ロールプレイを用いたコミュニケーショントレーニング

        水:健康教室(保健センターにて健診結果説明会・栄養指導)

          往診・外来見学

        木:健診結果説明会(地区の公民館にて)

          健診結果説明会(地区の公民館にて)

          共立病院(富士大和温泉病院)の医師と交流会

        金:検診結果説明会(地区の公民館にて)

          往診(佐賀市内。福田内科 福田先生に同行)

        土:外来見学

    第4週 月:小学校で生活指導(校医のお話)に同行

          通所リハビリ見学・入浴介助(富士大和温泉病院)

          在宅リハビリ同行

        火:検診結果説明会(地区の公民館にて)

          ロールプレイを用いたコミュニケーショントレーニング(佐賀医大)

        水:外来見学・訪問看護同行

          往診・外来見学

        木:外来見学・訪問看護同行

          外来見学

          夜 医師会「一般医に必要な産婦人科の知識」

        金:ケアマネージャーに同行

          外来診療(代診)

 

        研修終了

 

 

 

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感想

 

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【はじめに】

 へき地で医療をやろうと医者になり、5年間東京の大病院での研修(初期2年間スーパーローテーション・3年間総合診療科レジデント(初再診外来・入院患者・研修医教育))を受けましたが、総合診療とはいっても、大病院の中での医療には、自分のやりたいこととは何か異質なものを感じていました。そのため、医者という仕事とは決別して、違う仕事をしよう、という気持ちになったこともありました。でもその前に、一度地域医療の現場をのぞいてから決めよう、と思い直し、診療所研修を始めることにしました。

そのため、今後の診療所研修を希望する人とは少し最初のスタンスが違うのかもしれません。ただ、地域医療を志しながらも大病院で研修をする人は結構いて、その中にいると地域での医療の素晴らしさを知らないまま、知らないために志が変わっていく、ということも起きると思います。また、専門医にとっても病院とは全く違う医療があることを知るのは必要だと思います。病院での研修・地域での研修はどちらも大切であり、どちらも受けることができるといいのではないか、と今は感じています。

 そうしたわけで、診療所研修を始めました。まだ、一カ所に腰を据えて自分で診療を始めたわけではないので、いいところばかりをみていて、地域医療の本当の苦労・つらさをまだよくわかっていないと思いますが、少なくとも、もう少し医者を続けてみようという気持ちになりました。

人の暮らしの中に共に生き、人の生活・人生を、病気という面から支え、また、その地域がよりよくなるように共に創っていく、ということが、地域にでるとよりわかりやすく感じられました。特別なことではないのかもしれませんが、病院という医療だけが主役の特殊な環境で昼夜となく「修行」し、視野が狭くなりがちで気分転換もうまくできなかった私には、世界が変わるような貴重な経験でした。それが、感じられただけで十分大きな収穫だったのですが、他にも学ばせていただいたことが沢山あったので、述べさせていただきます。

 

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【全体としての感想】

 今回、1ヶ月の長期であり自炊もできないため、白浜先生のご家族と毎朝・夕、一緒に食事をさせていただきました。白浜先生にもご家族にも他人が1ヶ月も生活に入り込んでくるのは、負担であったと思います。暖かく迎えていただいたことに深く感謝いたします。しかし、診療所で働く医師の生活を垣間見ることができ、ちょうどこれから、家庭を持つことになる私にとっては、どのように地域の1住民として住み、その中で働き、どのように家庭をつくっていくか、ひとつの見本をみせていただくことができ、有り難い経験でした。

 また、1ヶ月間と見学・研修としては比較的時間があったため、余裕をもって、村の医療を見させていただくことができました。他職種の方々と働いたり、お話を聞いたりする中で、様々な人たち(医療職だけではなく、隣近所の人達も含めて)の連携・協力によって、村の医療が形づくられていることを強く感じました。ゆっくり、村の人とお話しすることで、自分が診ているのは「患者というよりも、同じ土地で生活している同じ人間・隣近所の人なんだ」ということが、本に書いてあるような難しい理念ではなく、感覚として実感することができました。

 

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今後に向けて

 

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【研修期間について】

 各診療所をまわる計画を立てるとき、当初は数ヶ月から半年ずつと考えていました。その地域に身を置き、長く診ないと、「お客さん」で終わってしまい、地域医療を知ることはできないと考えていました。しかし、短期間であっても、どのような環境でどのような考え方でどのような医療をされているかは、ある程度知ることができると考え直し、どうせ将来地域医療をするなら、まずはいろんな先生と話し、ロールモデルに出会う時期があってもいいかと思って、短期間の多施設での研修を計画しました。

今回の1ヶ月は長い方でした。個人的には、やっぱり長期がいいと思います。

<いい点>研修内容を沢山盛り込めることもメリットですが、それ以上に、顔を覚えてもらえてコミュニケーションがとりやすくなったり、その人の生活がみえてきたり、また、自分の対応がどうだったのか、病気のその後がどうなったのか、など経過を知ることもできました。もちろん、信頼関係を築くこと、それぞれの人の背景・歴史を知ること、共有することなどは、とても短期間でできることでありませんが、地域医療ならではの雰囲気・良さを感じるためには、数日の研修よりは、明らかに1ヶ月の方がいいと思います。ただし、地域医療で最低限必要な医学知識・手技が何かなどを知る、ということだけなら、もう少し短くてもいいと思いますが。

 

<要望>診療所で働きたいという私の立場から言えば、先生と2人体制で何年かでも働きながら、トレーニングが受けられれば、非常に嬉しいです。いつでも信頼して相談できる医師・ロールモデルとなる先輩医師がいる環境で地域医療が開始できれば、非常にいいと感じました。ただ、土地・環境・人間関係で相性が合わない場合はつらいでしょうが。

 

 

 

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【研修内容について】

<いい点>

 代診を1週間させていただいたことは、非常によかったです。自分が主体になって、診療を行うことでみえてくることは沢山ありました。コミュニケーション・診察の流れ・対応の判断、すべてが、みているのと自分でするのとでは違いました。紹介の判断にしても病院とは全く勝手が違います。

また、いかに看護婦さんが重要な役割を果たしているかも分かりました。看護婦さんにしか打ち明けない話は病院でも同様ですが、本当は訊きたかったこと、ちょっと医者にはいえない不満など、看護婦さんを通じて知ることができました。患者さんにとって訴える先があるという意味でも非常に大切だと思いました。また、糸山さんは勤務が長いからでもありますが、患者さんの背景から現在の問題点に至るまでいろいろと教えていただきました。糸山さんのサポートがなかったら、代診ができなかったと思います。

 他職種の方の活動をみたり、お話をきいたりしたことも大変よかったです。保健士・栄養士・理学療法士・社会福祉士・訪問看護士の方々と一緒に活動し、合間合間にいろいろとお話を伺うことで、そこの地域ではどのような「資源」があって、実際どのようなことをしていて、現場の人は何を困っているか、知ることができました。地域医療は、多職種の人々によってつくられていることがよくわかりました。具体的には、保健士さんと共に健診結果説明に公民館へ行ったり、通所リハビリの送迎バスに乗ったり、入浴介助をしたり、訪問リハビリ・訪問看護に行ったりするなどでした。診療所で医師と患者として出会う、それ以外の場面で、患者さんと出会うことは新鮮でした。

<要望>

 一週間や二週間ごとの、定期的な振り返りの時間が持てれば良かったと思いました。夕食や朝食のときなどにお話すれば良かったのですが、ご飯に夢中だったり、遠慮してしまったりで、自分でうまくタイミングをとれませんでした。定期的なまとめを自分でつくって、それを元に先生とディスカッションする時間をとっていただけると、体験したことがより深く広くなるかと思いました。ただ、先生の負担が増えると思いますが・・・。

 

 

 

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【各研修項目について】

●外来診療

<いい点>

・ 白浜先生の診療は非常に学ぶことが多かったです。6年目になって他人の診療をみる機会が持てたこと自体、貴重でした。かかりつけのお医者さんとして、相手のことがわかっているからできる会話や診療。どのように死にたいか、についての患者さんとの対話。器質的疾患はないが、全身倦怠を訴え続ける患者への対応。短いやりとりや、言葉にも、配慮を感じました。

<要望・気づいた点>

・ 診療を見学する意義は大きいと思うのですが、先生と平行して2診で、または、隣でチェックしながら診療させていただけると、また、いいのではないかと思います。

・ 手書きが多いため、白浜先生は患者の顔をみて話す時間が少なくなるのですね。学生のコミュニケーショントレーニングに参加していて感じました。大事な点、重要な点は向き合って話をするなど、メリハリをつけて限られた時間の中での診療をされていらっしゃるのがわかりました。ただ、何かいいたそうだけど言えない、又は言いかけたけど止めた、ようにみえた方が数人いて、きっと、後で糸山さんに話すのかな、と思いながらみていました。

・ 病院と違って、看護婦さんが非常に低姿勢なのですが、どうしてなのでしょうか。

 

●往診

白浜先生の往診だけでなく、佐賀市内の福田先生の往診や、訪問看護婦さんの定期訪問にも同行させていただくことができました。

・ 村と都市部の違いを感じることができました。40人を医師一人、看護婦一人の体制で担当している大変さも伺うことができました。

・ 代診往診では、身体所見とバイタルが重要な判断材料となる(それしかないので)ことを実感しました。

・ 本人だけでなく、ご家族・介護者へのケアも大切だと感じました。

・ TV番組の話をききました。その中で、施設の高齢者に、一番したいことは何か、という質問をしたところ、我々にはたいしたこともないことと思うような返事が、たくさん返ってきたそうです。こちらの価値観だけで判断しているとズレてしまうということでした。

 

● 代診

・ 自分の責任で診療を行うため、自ずと姿勢・気合いが変わります。どれくらいの緊急性で、どこまで検査をして、いつ/どうなったら他院にコンサルテーションするのか、の判断にせまられます。当直バイトみたいに「やりっぱなし」でフィードバックがないと、あまり得るものがないと思います。今回は代診期間が1週間と比較的長く、その後も2週間いたため、ある程度経過がわかりました。また、自分の応対がどうだったか看護婦さんを通じて、または、2回目以降の受診をみて知ることができました。このようなオンジョブのトレーニングは、よかったです。

・ そうはいうものの、ピンチヒッターの限界でしょうか。その場の責任があるといっても、「じゃあ次の白浜先生の診察の時に・・・」と自分で介入・判断することを避けてしまうことも多く、自分ひとりで全てを決めなければいけないプレッシャーは感じませんでした。

<提案>

 曜日を決めて毎週診療することや、受診回数が多い人なら白浜先生と交互にみるなどできれば、患者さんにも大きな負担をかけず、少し継続性をもった診療研修ができるかもしれません。

 

●学生教育の見学

・ コミュニケーショントレーニングは自分の診療を振り返るいい機会でした。また、あのようなディスカッションは研修医にも必要ではないかと感じました。コミュニケーション面のトレーニングもできるし、医学知識(症候から鑑別疾患・診察・検査などのマネージメント)のトレーニングも両方ができると感じました。

・ 臨床倫理カンファレンスも同様で、研修医こそ、悩むことが多いのではないかと思います。

 

●高齢者サービス会議

・ 非常にきめ細やかに、対応できる、いいシステムだと思いました。

・ 医者というのは、ほかの職業の人からは怖がられていると感じます。医者側は対等な立場で話をしていると思っていても、なかなか、そうはなっていない雰囲気を感じました。開業医の先生は怖い人が多いのでしょうか。

 

● 健診結果説明会

・ 診療所からでて、住民のひとたちと話ができる貴重な機会でした。時間にも余裕があって、食事・運動などゆっくり説明できる場なのですね。逆に、センターに多人数を集めるのは、効率は良くても、簡単な話しかできず、結局、住民の方には伝わっていないのではないかと思います。落ち着いた環境で、一対一で話すことは大切だと感じました。

・ 訪問での説明だと、より生活状況もわかり、具体的な説明ができそうです。

・ 栄養士さんの栄養指導を横から訊くことができた貴重な経験でした。日常生活に沿って、日々、実行できるような具体的なアドバイスをされていました。

・ 保健士さんの活動を知ることができました。恥ずかしながら、保健婦さんっていったい、どこで何をしているのか、はっきり知りませんでした。

 

● ケアマネージャーに同行

・ 在宅支援のため、どれだけケアマネージャーの方々が走り回られているか、よく分かりました。在宅を支える資源・現実と問題を知るためには、この研修が一番いいのではないかと思います。各家を訪問し、本人家族と話をして要望を聞き、各施設と調整をとっていく様子がよく分かりました。この曜日は同級生の○○さんがきているから、同じときにしましょうか、など、比較的小規模の集団だからこそできる、細やかな対応も感じました。

・ 制度が、今ひとつよくわかっていないので、ちゃんと勉強してから臨めばよかったと後悔しています。

・ この研修にもう少し時間をとってもよかったと思います。また、ヘルパーの仕事もみられればよかったです。

・ 家には居たいが、他人(ヘルパーなど)は家に入れたくないと言う方が結構多いと訊きました。自分に置き換えてもそう感じるとは思います。また、ヘルパーが泥棒する危険性も伺いました。

 

● リハビリ見学・入浴介助

・ 入浴している方々は非常に気持ちよさそうです。毎日でも入れればいいのでしょうが、入浴介助は人手もかかるし、時間もかかります。お年寄りの動作はゆっくりですし、服も何枚も何枚も重ね着していらっしゃいます(冬はもっと大変でしょう)。

 

● 部屋

・快適でした。しばらくの間、毎晩1時くらいになると警備保障の方が、「取り調べ」に来るのに困りましたが・・・。